痛みを抑える工夫
日々の診療において、患者さんから、「先生の麻酔は痛くないよね」とおっしゃっていただけることが良くあります。
歯科治療において麻酔は使用頻度の極めて高い手技ですが、一方で、麻酔そのものの痛みや、麻酔後に歯茎が腫れたり痛みが生じたりするといったトラブルを経験したことのある患者さんも多く、麻酔の使い方ひとつが歯科医院の評価に大きく影響しているといっても過言ではありません。
当院では、患者さんに極力苦痛を与えることの無いように、さまざまな麻酔テクニックを駆使して治療を行っております。痛みに弱い方は是非ご相談ください。
効果は最大に、ダメージは最小に
麻酔というと、多くの人はいかに麻酔をしっかり効かせて治療中の痛みを取り除くか、という部分に評価が集まりがちです。
ですが、麻酔を行うに当たっては、治療中の痛みを取り除くことはもちろんのこと、処置を終えて麻酔が切れた後でも不快症状やダメージを最小に抑えることが必要と考えています。
例えば、麻酔の仕方を誤ってしまうと歯茎が壊死してしまったり、麻酔をした部分から感染を引き起こして腫れや痛みなどの症状が現れる可能性もあります。
また、治療後にいつまでも麻酔が切れず、不快症状が長く続いてしまうこともあるでしょう。
症状によっては、治療中麻酔の効果を充分に効かせることが出来ずに、患者さんに苦痛を与えてしまうケースも決して少なくはありません。
当院では、虫歯を削る、神経をとる、歯を抜くというような、いわゆる患部を取り除く治療に対しては、周囲の組織を健康な状態に戻して回復保存させる治療を前提としていますので、そのためには予後を考えて麻酔を利用することがポイントであると考えています。
麻酔注射の痛みを抑える
当院では、麻酔時の痛みを軽減するために、電動注射器と、超極細の「33G」というの針を使用し、痛みを感じさせないようテクニックを駆使しながら負担の少ない麻酔を行うように心がけています。
電動麻酔器
麻酔液を注入する際、圧力の変化や温度の変化を歯茎が敏感に感じ取り、痛みを感じることがあります。
そういった痛みを減らすためには、麻酔液を注入する際の圧力の変化を最小限に抑えることがポイント。一定のスピードで、なるべくゆっくりと注入することで痛みを抑えることが出来ます。
電動麻酔器を使用は、コンピュータによって麻酔液の注入速度と圧力をコントロールできるため、麻酔液を注入する際の痛みを最小限に抑えることが可能になります。
極細針(33G)の使用
麻酔を打つ時の針は、細ければ細いほど、痛みを少なく抑えることができます。
歯科医療で使われている麻酔針は、一般的には「30ゲージ(0.25mm)」の針が使われておりますが、当院では、最も細い「33ゲージ(0.2mm)」の針を使用しています。
痛みを感じさせないテクニック
上記のように、今や麻酔時の痛みを抑えるための道具はたくさん開発され、当院でも利用していますが、最終的に一番重要なのは患者さんの状態や処置内容にあわせた最適な麻酔技術を提供することです。
例えば、頬粘膜を引っ張りながら針を刺すことで痛みを軽減したり、特に痛みを感じやすいと言われている前歯に麻酔を打つ場合には、唇部分をしっかりと力を入れてつまみながら引っ張ることで、痛みの意識をそらすことが出来ます。
また、一回で歯茎の奥まで針を刺すのではなく、徐々に麻酔を聞かせながらゆっくりと針を進めていくことで、歯茎へのダメージも少なく効率的に麻酔を効かせることが出来ますので、麻酔が切れた後の痛みや不快感も軽減することが出来ます。
麻酔が効く時間をコントロールする
麻酔をしっかりと効かせるためには、充分な量の麻酔液を注入する必要がありますが、麻酔の注入量が多いと治療後もいつまでも麻酔の痺れや不快感が残ってしまうことになります。
しかしながら、注入量を減らして麻酔が切れかかった状態で痛みを伴ったまま処置を続けたり、途中で麻酔の追加注入を繰り返したりすると、余計に術後の深い症状が長く続いてしまうことになりますので、麻酔の効きにくい体質の患者さんや、処置内容的に治療時間が長くかかりそうな場合は、最初に充分な量の麻酔をしっかりと注入する必要があります。
ですが、比較的短時間の処置で速やかに麻酔のしびれや不快感を撮りたい場合には、注入量自体を減らす方法の他にも、麻酔液の種類を変更する方法もあります。
当院では、オーラ注、シタネスト・オクタプレシン、スキャンドネストという3種の麻酔液を使い分け、麻酔の効き目や時間をコントロールしています。
オーラ注
当院で最も使用頻度の高い麻酔液です。
2%リドカイン(局所麻酔薬)とアドレナリン(血管収縮薬)が含まれており、3種の中では最も麻酔の効力が強く、効果時間も長いのが特徴です。
シタネスト・オクタプレシン
2%プロピトカイン(局所麻酔薬)とフェリプレシン(血管収縮薬)が含まれた麻酔液で、オーラ注に比べて麻酔の効力や効果時間はやや弱くなります。
血管収縮薬としてフェリプレシンが含まれていますが、オーラ注に含まれているアドレナリンよりも心臓への直接作用が少ないため、高血圧などの循環器系疾患をお持ちの方の場合はこちらの麻酔液を選択することもあります。
スキャンドネスト
メピバカイン塩酸塩3%を有効成分とする麻酔液で、血管収縮薬が含まれていないのが特徴です。
麻酔効果が早く消失しますので、短時間で終わる治療や麻酔による痺れや違和感を早く取り除きたい場合に使用します。
術後の炎症・感染拡大といったトラブルを防ぐ
深い歯周ポケットや炎症が起きている部位などに麻酔注射を打つ場合、注射によって細菌を更に深部へと送り込み、歯周炎を悪化・急発させるリスクを伴います。
そのため、そういった部位への注射は避けるか、事前に歯周ポケットの洗浄をしっかりと行って細菌をコントロールしたうえで麻酔を打つようにします。
また、歯間乳頭部(歯と歯の間の歯茎)なデリケートな部分に麻酔を打つ場合、注射の圧力が強すぎると血流障害を起こし、ケースによっては歯肉が壊死を起こして強い痛みを生じさせてしまうこともあります。
そのようなリスクがある場合は、麻酔の圧力を最小限にコントロールしたうえで、1か所ではなく複数個所に分けて麻酔をするなどの工夫により、術後のトラブルを防止します。
痛みを抑えるだけではない、治療の精度を高める麻酔の役割
麻酔というと、痛みの除去という点にのみ焦点が集まりがちですが、麻酔には「歯髄内圧のコントロール」というもう一つの側面もあります。
例えば、神経の残っている歯に被せ物や詰め物などをセットする場合、歯面清掃やエアによる乾燥で痛みを感じる状態では、その刺激によって歯髄の内圧が上昇して、象牙細管から内液が押し出されてくる状態となっています。
その状態では、接着剤が内部まで浸透することが出来ませんので、接着効果が阻害されてしまい、術後に冷たいものがしみたり、噛むと痛いといった症状を引き起こすため、麻酔によって痛みを取り除いたうえで、歯髄内圧をコントロールしてから接着操作を行うことが必要となります。
また、被せ物を入れる場合、歯肉の炎症が十分にコントロールされていないと、歯肉から浸出液や出血などで接着が阻害されてしまうこともあります。
これらを抑えるために、麻酔液に含まれるアドレナリン(血管収縮薬)を利用して歯肉からの出血を抑制することで汚染物質を除去し、確実な接着を実現させます。