セルフケア処方

    セルフケア

    10年先も健康な口腔内を維持するために、セルフケア能力の向上は不可欠といえるでしょう。

    1回のアポイントで歯科衛生士がプロケアとして実際に手を動かしているのが30分と仮定して年2回行った場合と、患者さんが毎晩2回、3分の歯磨きを365日行った場合とを比較すると、セルフケアはプロケアの約37倍も時間をかけていることになります。
    来院時にどんなに最高のプロケアを受けたとしても、セルフケアがうまくいかないと次回来院時に大量のプラークが付着し、それを除去するだけでアポイントが終わってしまいます。

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    逆にセルフケアがうまくいっていると、プラークを落とすのにそれほど時間はかからず、その代わり細菌をチェックしてリスクを調べたり、位相差顕微鏡で再発の予兆が出ていないか、あるいはセルフケアアイテムがうまく使えているかの判断など、患者さん自身では出来ないことをプロが行うことができます。

    当院では、患者さんができるだけご自身の口腔内の状況を理解して維持管理が出来るようになり、歯科医院はそれをサポートして必要に応じて介入を行うという形が、持続可能な予防へとつながっていくと考えています。

     

     

    セルフメンテナンスを成功させるためのポイント

    パーソナルデータの把握

    セルフケア

    予防の成果を高く得るには、まずは患者さんのパーソナルデータの把握を行うことが大切です。
    パーソナルデータには、①診てわかる情報、②聞いてわかる情報、③探ってわかる情報の3つがあります。

    ①は口腔内を診る、あるいは検査してわかる情報で、臨床所見や検査結果が含まれます。
    ②は患者さんに聞かなければわからない情報で、セルフケアの状況や治療に対する理解度などが含まれます。
    ③は患者さんにちょっと聞いただけでは教えてくれない、あるいは突っ込んで聞かないとわからない情報です。

    特に③に関しては、例えば酸蝕症の患者さんは、その原因となる飲み物を気づかずに飲んでいる可能性がありますし、あるいは悪いと気づいているから後ろめたくて教えていただけないのかもしれません。したがって、専門家である私たちが意識して情報を収集する必要があります。
    個々の患者さんに合わせた予防を行うには大切な事項で、通常の問診では見過ごしてしまうことがあります。何でも話していただける信頼関係を築いたうえで、なるべく多くのデータを把握することが大切と考えていますので、ご理解いただきご協力くださいますようお願いいたします。

     

    目標設定

    セルフケア

    患者さんのパーソナルデータをしっかりと把握したうえで、一人ひとりの患者さんに対して持続可能な短期・中期・長期の目標を決め、それを患者さんと共有します。

    【短期目標】今ある症状や主訴の改善に対して
    【中期目標】今後の再発・発症リスクが高いことに対して
    【長期目標】10年先を予測した時の変化に対して

    目標については、その人の現在の状況から考えて少し頑張れば達成できるもので、かつ達成できたことがわかるような具体的な目標を設定することが大切です。
    また、その予防プログラムを検討する際は、その患者さんのデータから何が弱点なのかも考えて行います。
    目標の設定やプログラムの開始は早ければ早いほど効果も高まりますので、メンテナンスに移行してからではなく、できるだけ初期に行い、早めに予防のスタートラインに立っていただくようご説明をさせていただいています。

     

    予防プログラムの設定

    セルフケア

    予防プログラムについては、どの患者さんに対しても同じ予防メニューを提案するということはありません。
    予防プログラムは患者さんごとに決めていく必要があり、これはプロケア、セルフケア、メンテナンスの間隔の3要素で決まります。

    まずセルフケアは検査結果などの基づいて処方した内容を実践していただきます。

    プロケアでは、セルフケアの内容とうまくリンクできるように、たとえば1時間のご予約枠の中でで何を行うべきかを決めていきます。
    患者さんによってリスクは違うので当然内容は異なりますし、また同じ患者さんであっても毎回同じではなく、場合によってはリスク検査やセルフケアの確認を行うなど、患者さんの状態を維持するために何が必要なのかをアポイントごとに検討します。

    最後に、セルフケアとプロケアのバランスを考え、維持管理できるメンテナンスの間隔を決めれば予防プログラムの完成です。

     

    データに基づいたセルフケア処方

    セルフケア

    セルフケア処方には製剤(歯磨き剤、洗口液など)と、ツール(歯ブラシ、歯間ブラシ、フロスなど)の処方があり、両者を組み合わせて処方します。
    製剤の処方では、必要な成分などは歯科医師の診断に基づいて判断しますが、その成分が含まれている製品の中から「患者さんの使いやすさ」「どのバランスで届けるか」などを考えて選択するのは、患者さんを担当している歯科衛生士です。
    そして実際に処方するときには、必ず口腔内を診てわかった情報と結び付けて説明するようにしています。

    例えば、単に「歯周病にいいです」と説明するのではなく、「○○さんの歯ぐきは炎症で出血しやすい状態にあるので、それを抑えてくれるトラネキサム酸という成分が入っている製品からお選びします」と説明すると同時に、その状態を口腔内写真や位相差顕微鏡などで視覚的にも示すことで、わかりやすい説明を心がけています。
    歯磨き剤をドラッグストアやスーパーでお求めになるのとの最大の違いは、お口の中の状態を検査によって把握した上で必要な成分や清掃剤の配合量を十分に検討した上でお選びして処方するという点です。当院では、予防目的だけでなく治療の成果を上げるためにも、最適なホームケアの方法をご提案させていただいております。

    セルフケア処方 7つのターゲットと基本方針 セルフケア処方 歯磨剤選びかたガイドの一例

     

     

    処方はなるべくシンプルに、負担をかけずに

    セルフケア

    セルフケアグッズを最適化しようとすると、あれもこれもと多くのものを処方してしまいがちですが、それは誤りです。
    重要なのは「処方の質」であり、組み合わせによってできるだけ製剤を集約し、患者さんの負担を減らすことが大切と考えています。

    セルフケアグッズについては2つ以内が理想ですが、3つ目が必要であれば洗口液のように簡単に使えるものか、朝晩の使い分けや週1回など使用頻度が低いものにして患者さんの負担を少なくする工夫をしています。
    最終的に使用するのは患者さんご自身ですので、使用感や香味、要求するレベルに無理がないか、コストの負担が継続できるかなども考慮してご提案させていただいています。

     

    「モノ」の処方から、「やり方」の処方へ

    歯磨きが苦手な人の特徴として、ご自身のお口の中を三次元的に把握できておらず、歯ブラシを適切に当てることができないケースが多く見受けられます。
    当院では、ブラッシング指導の際、染め出し液を使ってご自身の磨き残しやすい場所のチェックと指導をさせていただいておりますが、それに付随するサービスとして、染め出しをした時の状態を口腔内スキャナーでスキャンし、そのスキャンデータを患者さんのスマホに送信するサービスも行っています。

    そうするとご自宅でも、染め出しされた自分の口腔内の状態を、3Dデータとして自分で動かしながら確認できるため、どの部分が磨けていないのか、確認しながらハミガキすることが出来ます。

    当院ではこれまで、患者さんの磨き残しの多い部分を紙に書いて渡していましたが、実際にこれを見ながら歯磨きをする患者さんはほとんどいませんでした。
    ですが、日常的にスマホでニュースやLINEをみながら歯磨きをする人は多くいらっしゃるようですので、そういった既存の生活習慣の延長線上に少しだけ歯科のツールがお邪魔するという程度の関係性の方が、患者さんには無理なく受け入れてもらえるのではと思い、このようなサービスを始めました。

    おかげさまで患者さまからの評判は高く、お母さんがお子さんの仕上げ磨きをする際にご活用いただくというケースも増えています。
    セルフケアは、いくら効果的な方法でも、それが持続できなければ意味がありません。患者さんがなるべく継続しやすい方法を常に考えながらご提案させていただいております。

    ご自身の、あるいはお子様の歯磨きの状態をスマホで見てみたい方は是非ご相談ください。

    お子さんはデジタルツールの扱いがとても上手です!

    セルフケア

    前述の通り、「成人でブラッシングが苦手な人の多くは,自分の歯が口腔内でどのようになっているか3次元的にイメージできていない」と感じることがあります。
    ところが、小学生にこの口腔内スキャナーのデータを渡して触ってみてもらうとあっという間に「この歯はここでしょ」という具合にスマホと照らし合わせて自分の歯を正確に指させるようになります。
    子供のうちから自分の口腔内がイメージできるようにデジタルツールを使ってコミュニケートしていくことは、予防への第一歩として大切ではないかではないかと思う瞬間です。

    コミュニケーションの作法は、紙で重みや温かみを伝えるアナログ手法と、データでインパクトやわかりやすさを伝えるデジタル手法とを上手く使い分ける時代になっています。
    大切な作法は守りつつ、一方で従来の手法にこだわらず、時代の流れに応じてもっと伝える力のある手法へと変えていくことにも敏感でありたいものです。

     

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